消えゆく記憶と、消えない温もり

 新年おめでとうございます。今年は午年(うまどし)です。しかも、「丙午」です。  丙(ひのえ)というのは、五行では「火」に属します。陽性であり、明るさや表面に現れるエネルギーを表します。午もまた五行では同じく「火」に属します。活動性や勢いを象徴しています。五行というのは「中国古来の哲理にいう、天地の間に循環流行して停息しない木・火・土・金・水の五つの元気」と『広辞苑』に解説されています。火に属するのは、丙も午も同じです。火は燃える熱や光、成長を表します。丙午の今年こそ、大いに熱意をもって臨みたいものです。

 年末年始はどのように過ごされましたでしょうか。私は、施設に入所中の母を我が家へ連れ出し、僅か一泊二日ですが一緒に過ごすことができました。いつもは一人で眠ってもらっていたのですが、認知症が進行し、かつ車いすの母は一人でトイレに行くこともままならず、ひと晩、母の隣で寝ることにしました。

 案の定、トイレには2時間おきに連れて行き、慣れないところで落ち着かないのか、「お母さんがいない、お母さんがいないと娘(母にとっては孫)が泣いている‥」と独り言をぶつぶつ。何度も、何度も泣いていないと説明するも、同じやり取りの繰り返し。辟易しながらも朝まで付き合い、私は眠ることすらできませんでした。外が明るくなり、 家人が起きてくる時間になると、ようやく母は熟睡をはじめました。ということで、1月1日の朝は一年で一番眠たい朝になりました。

 昼食を終え、母を施設に送る時に、「みんなと一緒に良い正月を迎えることができたね」と尋ねたところ、大晦日に年越しそば、元日に雑煮やおせち料理を一緒に食べたことなど一切を忘れており、「いつ一緒に連れて帰ってもらえるのか‥」の衝撃的なひと言。短期記憶が‥。私が二日間一緒に過ごしたことは何だったのかと絶望‥。ただ、私が赤ちゃんの頃、母に育ててもらった時の記憶がないのと同じ。そう思えば気分も少し落ち着きました。

 施設に送り、帰る際の悲しげな母の顔を見ると、申し訳ない思いで胸がいっぱいになりました。これで良いのだろうか‥一人にしている母のためにも、一層仕事に打ち込むことが恩返しだと気持ちも新たにした年始でした。