十牛図が教える仕事の真価

 今日はハロウィン。キリスト教会が11月1日を「諸聖人の日」を意味する「All Hallows' Day(オール・ハロウズ・デイ)」と定めました。その前夜である10月31日を「All Hallows' Eve(オール・ハロウズ・イブ)」と呼んでいたものが、次第に訛って「Halloween(ハロウィン)」になったと言われています。それにしても2年前、うららかな風ではハロウィンを祝うスペシャル弁当を企画したのですが、その時のことが鮮明に思い出されます。当時はまだまだ発展途上だった私たちにとって、荷が重すぎるほどたくさんのご注文を頂き、へとへとになりながらも無事お届けすることができました。今年は料理長さんの不在もあり、通常通りのメニューとなりましたが、来月にはクリスマスがあります。ワクワクするメニューを考えておりますので期待してお待ちください。

 「十牛図(じゅうぎゅうず)」という絵物語をご存知でしょうか?これは、禅の修行者が「本当の自分」を探し、悟りに至るまでの10のステップを描いたものです。牛を探し始め(尋牛)、見つけ(見牛)、苦労して手なずけ(牧牛)、ついに悟りを得て心の平安に達します。多くの人は、ここで物語が終わる、つまり「自己実現がゴールだ」と考えがちです。しかし、十牛図の物語はさらに続きます。悟りの境地を得た修行者は、第9段階で、全てが清らかで美しい世界を体験します(返本還源)。もはや悩みや迷いのない、完璧な世界です。最終の第10段階は、「入鄽垂手(にってんすいしゅ)」と言います。これは、「ちりまみれの町へ入り、手を垂れて(差し伸べて)、人々と共に生きる」という意味です。「ちりまみれの町」とは、悩みや苦しみを抱える人々がいる、この現実社会のことです。「手を垂れる」とは、見返りを求めず、へりくだって、困っている人に手を差し伸べ、助けることです。

 十牛図が教える真のゴールは、「自分だけが悟りを得て終わり」ではない、ということです。自分の内面を徹底的に磨き上げ、本当の能力と心の平安を得た後、その高い視点と得た力を持ち、あえて迷いの世界へ戻り、世の中や、目の前の人々のために貢献することこそが、最も尊い行いであると説いているのです。これは、私たちの仕事にも通じます。私たちは、スキルを磨き、知識を増やし、目標を達成しようと努力します。それは、いわば自分自身の「牛」を見つけ、飼い慣らす過程です。しかし、その努力の本当の価値は、その能力を使って「お客様や仲間、社会にどれだけ貢献できるか」という最終段階にあります。今日一日、私たちが培ってきた知恵や経験を、出し惜しみすることなく、困っている誰かのために「手を垂れて」使っていきましょう。それが、私たち一人ひとりの能力を、最も輝かせる道だと信じます。