時を超えて届いた、一通のメッセージ

 歴史小説の巨星・司馬遼太郎が、次代を担う子供たちのために書き下ろした随筆『二十一世紀に生きる君たちへ』。1989年の発表以来、小学校の教科書の定番として多くの少年の心に刻まれてきたこの「メッセージ」に、私はある書店の店先で、思わず足を止め、深い感動に包まれました。短くも丁寧な言葉で綴られた一文一文。そのすべてが真理を突いていますが、なかでも私の心を強く捉えて離さない一節があります。

 「自然物としての人間は、決して孤立して生きられるようにはつくられていない」

 人間は一人では生きていけない。だからこそ、助け合って生きていかなければならない。そして、その「助け合い」の根幹に必要なのは、「いたわり」であり、「他人の痛みを感じること」であり、「やさしさ」であると司馬氏は説きます。私が何よりハッとさせられたのは、続くこの言葉でした。

 「この三つの言葉は、もともと一つの根から出ているのである。根と言っても、本能ではない。だから、私たちは訓練をしてそれを身につけねばならないのである」

 かつて存在した幾千万の人生を、歴史の彼方まで見つめ続けてきた司馬さんが辿り着いた結論。それは、科学や技術がどれほど進歩しようとも、人として生きる上で欠かすことのできない「心の作法」でした。私たちは、放っておけばいつの間にか自分中心な考え方に陥り、傲慢さや卑屈さに支配されてしまいます。「いたわり」も「やさしさ」も、決して自然に湧き出る泉のようなものではなく、日々意識し、鍛え、磨き続けなければ枯れてしまう「意志」の力なのだと思い知らされます。いい年をして未熟な私は、その大切なことをつい忘れてしまいがちです。だからこそ、時折こうして全文を読み返します。