明けない夜はない

 ある報道では、『令和の米騒動』と過激な表現も耳にしましたが、スーパーの棚には米がなく、次回の入荷は●月●日・・と札が張り付けられている状況は、米不足の深刻さを実感します。報道の中で『買いだめは差し控えるように』と注意喚起していましたが、私たち弁当事業者は、そうはいきません。米がなくては弁当を作れませんので、死活問題です。買うことができるタイミングで買いだめせざるを得ません。また米の価格は、一俵(30kg)で2,000円も高くなっています。新型コロナ、ウクライナ戦争、原油価格の上昇による原材料の高騰など、飲食業界に身を置く私たちは、心休まる暇がないほどいろいろな壁が立ちはだかります。

 確かに障壁はありますが、支えてくださるたくさんのお客様がおられます。みなさんのご期待を裏切ることがないよう、私たちはいつも真摯に、そして常に最善を尽くして弁当作りに励めば、結果は必ずついてくると信じています!

It's always darkest before the dawn.

『母を思えば・・・』

 施設に入所中の私の母は、兄が用意した携帯電話を持っています。母が携帯で電話をしてくるうちは、大丈夫な証し‥。3年前に福山市内の脳神経外科病院でMRIによるVSRAD(脳の萎縮を調べる)や長谷川式認知症スケールで検査してもらい、アルツハイマー型認知症と診断されました。当時はまだ一人暮らしをしており、食事、排せつ、熱中症‥いろいろな心配をしておりましたが、新型コロナに感染し、病院での長期療養を余儀なくされた後は、頑なに拒否し続けた施設入所をあっさりと了承してくれました。母のことを思えば同居して介護すべきだったのかもしれませんが、私たち家族は共働きであり、また私は就労継続支援事業を始めたばかりで身動きがとれない状況でした。ですから、当時は正直なところ「助かった」という思いでした。その一方、施設に追いやったという良心の呵責から、今も母には負い目を感じております。

 最近、一晩に10回以上電話がかかってきます。その内容はいつも同じで「孫の泣く声が聞こえたけど、何かあったの‥」。そして、いつも私の返事は「娘は隣で笑っているよ」。その数分後にはまた電話がかかり、「何かあったの‥」。夜のあいだ、何度も何度も繰り返します。深夜であろうと、早朝であろうと、お構いありません。さすがに夜中は寝てしまって電話に出ることができないときもあります。「何時に電話しているのか」と叱責してもおかしくない時間です。でも母の寂しい心の内を思えば、私はそれを言うことができません。言う資格もありません。ですから、いつも私は「娘は隣で笑っているよ」と返事をします。いつでも、何度でも、同じ返事をします。母が自分で携帯を使えるまでは―――。

 認知症の母親の介護経験をもとに、命や認知症を題材にした作品を作り続ける詩人・藤川幸之助さん。その心温まる詩を紹介します。

『領収証~藤川幸之助』
 父は
 おしめ一つ買うにも
 弁当を二つ買うにも
 領収証をもらった
 そして
 帰ってからノートに明細を書いた
 「二人でためたお金だもの
 母さんが理解できなくても
 母さんに見せないといけないから」
 と領収証をノートの終わりに貼る父
 そのノートの始まりには
 墨で「誠実なる生活」と父は書いていた

 私も領収証をもらう
 そして母のノートの終わりに貼る
 母には理解できないだろうけれど
 母へ見せるために
 死んでしまったけれど
 父へ見せるために
 アルツハイマーの薬ができたら
 母に飲ませるんだと
 父が誠実な生活をして
 貯めたわずかばかりのお金を
 母の代わりに預かる
 母が死んで
 父に出会ったとき
 「二人のお金はこんな風に使いましたよ」
 と母がきちんと言えるように
 領収証を切ってもらう

 私はノートの始めに
 「母を幸せにするために」
 と書いている