お弁当と、心と、縄をなう日々

 私たちは毎日、「一個入魂」という言葉を大切に、利用者様と一緒に心を込めてお弁当を作っています。ひと粒の炊き立てのご飯、ひと切れのおかず。その一つひとつに、召し上がる方の笑顔を想像しながら向き合っています。ですが、正直にお話しすると、私の心は日々揺れ動いています‥。

 禅の言葉に、四祖道信禅師の「守一不移(いちをまもってうつらず)」という教えがあります。一つのことに心を定め、たとえ鳥が飛び立つように心がどこかへ行こうとしても、縄でそっと手元に引き戻すように、また今の作業に戻りなさいという教えです。

 利用者様の中には、周囲の音が気になったり、不安が募ったりして、どうしても集中が途切れてしまう方がいらっしゃいます。「もっと落ち着いて取り組めたら、失敗しなくて済むのに」 「どうすれば心静かになるんだろう」 そうやって悩むうちに、私自身の心もまた、あちこちへ飛び回っていました。ふと気づいたのです。「利用者様に集中してほしい」と願っている私自身の心が、一番「今」にいないのではないか、と。

 「一個入魂」のお弁当作りは、単に美味しいものを作る作業ではありません。 心が散ってしまったら、また静かに引き戻す。失敗して落ち込んだら、また「今」に帰ってくる。その「引き戻す作業」の繰り返しこそが、私たちの大切な歩みなのだと、道信禅師の言葉に教えられた気がします。

 利用者様の心が揺れるとき、せめて私だけは、どっしりと、うららかな風のように、この場所で「一」を守って待っていたい。

 「大丈夫、またここから始めよう」

 そう笑って言える私であるために、まず私自身が、一個のお弁当、一人の利用者様と、真っ白な心で向き合う修行を続けていこうと思います。今日も「うららかな風」では、何度も心を整えながら、美味しいお弁当が仕上がっています。 私たちの「一個入魂」が、皆さまの元へ届きますように。